小屋暮らしで石鹸は使えるのか。

排水問題

小屋暮らしにおいて排水をどうするかは大きな問題である。
水を得る事よりも使った水を捨てる際に困る事が多いという。
ここでは小屋暮らしの排水における問題点について考えてみたい。

排水処理の問題点

環境汚染のメカニズム

排水は畑に撒くことを前提としているが、排水における問題点を浮き彫りにするためにここではあえて河川汚染のメカニズムをとりあげてみる。

まず、下水処理を経ずに生活排水を河川に垂れ流した場合、生態毒性のある物質が含まれていると水生生物に強い影響がでる。
また、排水には有機物が多く含まれているため河川の富栄養化が起こる。
富栄養化は次のような過程を経る。

植物プランクトンが増える

それを捕食する動物プランクトンが増える

光合成が行われない夜間に酸素不足になりプランクトンが死滅

その死骸を含む有機物が川底に堆積し、それを微生物が酸素を使って分解する

その結果、水中の溶存酸素量が低下して好気性微生物が活動できなくなる

有機物の分解が停滞しヘドロが堆積、嫌気性微生物の活動が優先的になり、悪臭の原因となる物質が生成される

このような過程を経て河川の汚染は深刻なものとなる。
そのため、下水処理施設では有機物の分解が行われ、浄化された水を排出している。

問題点は環境毒性、分解性、有機物の量の3つ

このように、河川の汚染を例にとってみると、排水中に生態毒性のある物質がどれだけ含まれているか、また、富栄養化を引き起こすような有機物が分解されるかどうか、またそれがどれだけ含まれているかが問題となる。
つまり逆にいうと、排水に含まれる物質に環境毒性がなく、なおかつ自然界で素早く分解され、蓄積しないくらいの量であれば良いという事になる(もちろん、河川に排水を流すことなど考えていない)。
それでは環境毒性、分解性、有機物の量の3つの観点から実際の小屋暮らしにおける排水について考えたい。
そして、石鹸は使えるのかどうかについて考えてみたいと思う。

合成洗剤と河川汚染の歴史

身の回りの生活日常品で生態毒性のあるものといえば合成洗剤等に含まれる界面活性剤である。
界面活性剤は親水基と疎水基の両方を持った構造をしており、界面活性能があるかを示す大まかな指標は「泡立つかどうか」である。
河川に放出された界面活性剤は魚介類のエラに吸着し、エラ表面の化学的性質を変化させ、酸素の摂取を妨げる。その結果、魚介類の窒息死を招く。

合成洗剤が普及し始めた1960年代、まだ都市部の下水処理設備は整っていなかったため、排水は河川にたれ流しにされ、水生生物が死滅し、洗剤の添加物であるリン酸塩などの影響で富栄養化がおこり河川の汚染が進んだ。
その後は合成洗剤に改良が加えられ、より生物毒性が低く分解性の良い製品が開発され、添加物もリン酸塩の代替品に変更された。
さらに下水処理施設の発達により深刻な環境汚染は食い止められた。
そのため現在、都市部においては市販されているどんな洗剤を使おうと下水処理施設で分解されるので基本的に問題にはならない。

(ちなみに、農家が使う農薬の中にはほとんど全てに展着剤や葉面散布剤という名目で合成界面活性剤が含まれており、それを垂れ流しにしているのが普通のようだ。
中には、魚毒性があるので河川の近くでは使わないでくださいという注意書きがしてあったりと、結構グレーゾーンなのが農薬の現状だ。
もちろん、より環境負荷の低い製品が開発競争によって生み出されているものの、依然として環境にはあまりよろしくないものであるのは確かのようだ。)

石鹸の化学的特性について

石鹸は比較的毒性が少なく分解しやすい。
その理由は石鹸かすをつくるから。

石鹸の主成分となる脂肪酸ナトリウムも合成洗剤と同じく界面活性剤と呼ばれるものなのだが、水中に含まれるミネラル分とすみやかに結合し石鹸かす(金属石けん)となり不溶化し、すぐに界面活性能を失って泡立たなくなるという性質がある。(ちなみに初期の合成洗剤にリン酸塩が添加されていた理由はこのようにミネラルと結合し洗浄力が落ちるのを防ぐためであった。)
界面活性剤の分解といった時に一次分解と究極分解の二つの基準があり、一次分解とは界面活性能を失うかどうかを示したもので、究極分解とは有機物が水と二酸化炭素にまで分解されることを示したものである。
石鹸は一次分解までの速度が速く、すぐに界面活性能を失うという性質があるため環境毒性は低いと考えられる。
また、ミネラルと結合し界面活性能を失った石鹸かすは脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムといった物質であり、これらは家畜の飼料や化粧品の原料に用いられており毒性は極めて低い。
また、究極分解においても石鹸は合成洗剤に比べると比較的生分解性は良いという。

石鹸は有機物負荷が大きい

しかし、石鹸は前述のとおり界面活性能を失いやすいので、洗浄力は合成洗剤に比べると悪い。
そのため、特に洗濯用粉石けんなどは合成洗剤に比べ、多くの量を使用する必要があるため生分解性は良くても排出される有機物の量が多くなるため結果的に環境負荷は大きくなる。
よって小屋暮らしでは洗い物や洗濯に石鹸を用いるべきではないだろう。
洗濯は水だけ、もしくは少量の重曹を加えての踏み洗いがベストかと思われる。

小屋暮らしと石鹸

石鹸の使用と小屋での排水システム

どうしても石鹸を使用する際は、なるべく少量に心掛け、使用後は素早く界面活性能を失わせ不溶化し、なおかつ生じた石鹸かすの分解が促進されるような環境づくりが必要だと思われる。
なので、具体的にはカルシウムやマグネシウムといったミネラルを排水に混ぜることによって、石鹸かすを生じさせて界面活性能を失わせ無毒化、不溶化し、単なる有機物が入った排液にする。
その排液を有機物を分解する微生物が豊富な土壌である畑に撒くことによって、代謝させ自然に返すという方法が考えられる。
もしかしたら、ミネラルリッチな土壌、具体的には苦土石灰(炭酸カルシウムと酸化マグネシウム)などを混ぜた畑に石鹸を使用した排液を直接撒けば、石鹸かすとして有機物がトラップされ、そのまま土壌微生物の働きによって分解されるかもしれない。

どんな石鹸が環境に良いか

石鹸の種類による分解速度の違い

石鹸の主成分である脂肪酸ナトリウムは脂肪酸の種類により分解速度は異なるという。
各種脂肪酸と炭素数は以下の通り。

C12 ラウリン酸
C14 ミリスチン酸
C16 パルミチン酸
C18 ステアリン酸
C18:1 オレイン酸
C18:2 リノール酸

石鹸の原料となる油脂に含まれる脂肪酸の種類(重量%)を以下の表にまとめた。

油脂名\炭素数 8:0 10:0 12:0 14:0 16:0 18:0 18:1 18:2
オリーブ油 9.8 2.9 73.0 6.6
パーム油 0.4 1.1 41.0 4.1 36.0 9.0
やし油 7.6 5.6 43.0 16.0 8.5 2.6 6.5 1.5
牛脂 2.2 23.0 14.0 41.0 3.3
ラード 0.1 1.6 23.0 13.0 40.0 8.9

日本食品標準成分表2015年版(七訂)
脂肪酸成分表編 第2章 第1表 14 油脂類より抜粋

河川における石鹸の生分解速度を計測した実験論文があった。

脂肪酸ナトリウムの生分解速度は以下の順に減少することが明らかとなった.
C12>C10≒C8>C14≒C18:2>C18:1>C16>C18

Koichi Y.,“Biodegradation of Linear Alkylbenzene Sulfonates and Soap in River Water”, Jap. J. Limnol. 45, 3, pp.204-212 (1984)

この実験は河川水中に界面活性剤を添加してその濃度の減少を追うリバー・ダイ・アウェイ法という試験法を用いて行われたという。

この結果によると最も分解速度の速い脂肪酸はC12ラウリン酸であり、50%究極分解にかかる時間はそれぞれの濃度で13時間(7.3mg/L)、18時間(24.7mg/L)であった。
ラウリン酸を多く含む油脂はヤシ油でそれを原料として用いたものはココナッツオイル石鹸である。
その他のオリーブオイルや牛脂に多く含まれるC18:1オレイン酸の石鹸の分解速度は57時間(7.3mg/L)、54時間(24.7mg/L)であった。

逆に最も分解速度の遅いC18ステアリン酸でも62時間(7.3mg/L)、70時間(24.7mg/L)であり丸三日以内には50%究極分解されるようだ。

この結果より、分解者の多い土壌中では究極分解に至るまでの時間はもっと短いだろうことが想像できる。
また、他の石鹸と比べてココナッツオイル石鹸が最も分解されやすいと思われる。
(なおあくまで、分解速度のみの評価なので洗浄力や肌に良いかは別とする。)

まとめ

小屋暮らしにおいて、石鹸は食器洗いや洗濯に用いるべきではなく、どうしても使いたい場合はちょっとした手洗いの際ぐらいにごく少量を使用し、使用後の排水はちゃんと界面活性能を失わせるようにミネラルと混ぜて石鹸かすにして、畑に撒くなどすれば良いのではないか。
土壌の分解キャパシティをオーバーしない程度に排出に収まっていれば環境に蓄積せずに汚染は防げると考えられる。
また、石鹸の種類ではココナッツオイル石鹸が生分解速度が速いので石鹸の中ではましな方だろう。
もし、手に入るならムクロジという木の実も良いかもしれない。
ナチュラルソープナッツと呼ばれ天然界面活性剤であるサポニンを豊富に含んでいて汚れが落ちるため、インドでは昔から洗剤代わりに用いられてきたという。
天然のサポニンは土壌に撒いても土壌中の微生物の餌となるため肥料としても用いられるそうだ。
色々と選択肢はあるので環境負荷の少ない方法をこれからも考えていきたい。

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